降誕祭の夜

汝の敵を愛せよ

『黒い雨』を再読して

 

ganju39.hatenablog.com

 週末にようやく読み終えました。

まとまらない感想になると思います。

 

今週は井伏鱒二 人と文学」「『黒い雨』について」とある二つの

後書きを読んでみたいと思います。高校生の時には多分読んでいないと思います。

 

この小説に出てくる重松とシゲ子夫妻と姪の矢須子の

3人を中心に物語は進んでいきます。

考えてみるとこの本を読んだときは17歳くらいですので、結婚適齢期の矢須子も

もちろん40代半ばと思われる重松とシゲ子も私よりもずっと年上です。

 

高校の時に読んだ時は、原爆の悲惨さに心を奪われて読み進めました。

今回は、すっかり3人より【年上】になってしまったので、

より、重松の気持ちになりながら、重松が見た光景と彼の気持ちを想像しながら

丁寧に読み進めました。

重松が見たり聞いたりした体験がたくさん語られていくので、

原爆投下の瞬間やその後の惨状だけでなく、戦況の様子や

食糧事情なども今回はじっくり確認することができました。

 

3人が見る被災直後の広島の惨状がより生々しくて、

読んでいるのが辛くなりました。

閃光、爆風、ペシャンコになった家々。何よりも被曝をした人々の姿の描写。

一瞬にしてあらゆるものを破壊した原子爆弾の恐ろしさを改めて感じました。

 

その広島の惨状は重松から語られます。

目を覆いたくなるような光景がそこにあったのです。

人間の尊厳が奪われたのです。

 

3人は被曝により直接命にかかわるような外傷は受けていません。

重松は顔に火傷をします。矢須子は「黒い雨」にあたります。

廃墟と化した広島で3人は会うことができます。

そして、なんとか生き延びることができるのですが、

結婚適齢期の矢須子にはなかなか縁談がまとまりません。

原因は、「黒い雨」に当たったことによる原爆病の疑いです。

 

その疑いを晴らすために重松は矢須子の日記と

自分の日記を合わせて『被爆日記』を書いていきます。

 

残念ながら、その思いもかなわず矢須子の容態は次第に悪化していきます。

気弱になっている矢須子を励まそうと、重松とシゲ子夫妻は様々な手を打ちます。

重篤な状態から奇跡的に助かった方の手記を手に入れたり、

滋養をつけるために鯉を育てたり・・・。

 

物語は、その『被爆日記』の清書が完了するところで終わります。

 

悲惨な状況の中で、庶民が助け合っている姿が描かれていきます。

玉音放送が流れる前の日に、重松が頭の中で考えていたことは、

その当時の殆どの日本人の気持ちだったのではないでしょうか

 

〜前略〜それにしてもピカドンが落ちる前に降伏することは出来なかったのか。いや、ピカドンが落ちたから降伏することになったのだ。しかし、もう負けていることは敵にも分かっていた筈だ。ピカドンを落とす必要はなかったろう。いずれにしても今度の戦争を起す組織を拵えた人たちは・・・・

 

読み進めている中で、庶民は、思っていた以上に戦局について

客観的に理解していたことも分かりました。

ただ、それを口にすることすらできなかったということも。

生きていかなくてはいけませんから。

 

原爆病の恐ろしさをより肌で感じることができました。

 

再読してよかったです。