長い物語もいよいよ最後の巻になりました。
裏表紙より
「簡単なことだ。あたしを殺せばよろしい」と騎士団長は言った。
「彼」が犠牲を払い、「私」が試練を受けるのだ。だが、姿を消した少女の行方は・・・・。
「私」と少女は、再び出会えるのか。暗い地下迷路を進み、「顔のない男」に肖像画を描くように迫られる画家。はたして古い祠から開いた世界の輪を閉じることはできるのか。
「君はそれを信じた方がいい」
物語は希望と恩寵の扉へ向かう。
登場する人物の誰かが犠牲にならなければいいなぁ、と思いながら読み進めました。主人公がメタファーの中で、様々な経験をすることやその中で、前に進もうとする彼を後ろに引き戻そうとする二重メタファーの存在。
自己を確立して強い意志で前に進もうとする主人公と、その彼を後押しする、騎士団長殺しに描かれているドンナ・アンナ(あるいは主人公の亡くなった妹)の声がけ。
そして、そのメタファーの世界から彼が辿り着いた場所には納得させられました。彼がメタファーの世界から抜け出した場所は、彼自身が予想もしていなかったところにたどり着きました。
でも、この物語を読んでいると、それは必然であり、そこに戻る事が自然なこととして感じる事ができました。
メタファーの中を進んでる彼の行動や出会う人々などは、現実の世界で私がもがき苦しんでいた状態とかなり一致しています。そして、二重メタファーの罠に絡めとらせそうになる描写や、最終的に落ち着く場所などからは、運命ではなくて、宿命のようなものも感じます。
- それは犠牲と試練を要求する
- 埋めなくてはならない空白がいくつかありそうです
- 死が二人を分かつまでは
- 勇気のある賢い女の子にならなくてはならない
- 恩寵の一つのかたちとして
宮崎駿のアニメにも勇気のある少女がたくさん描かれています。村上春樹の小説にも時々、少女が物語に大切な彩りを添えます。今回も、とても効果的に魅力的に描かれていました。
さて、物語のラスト「恩寵の一つのかたちとして」で、あの3.11の大震災のことが描かれています。第1巻で主人公が妻に別れを切り出され、彼は北へと長い旅に出かけます。その失意の時に訪れた岩手や宮城の名前も知らない街並みが津波で壊滅的な被害を受けている様子が。
物語のラストの方で、ユズ(主人公の妻)が語る言葉が、この物語の一つの大きなメッセージのような気がします。
引用します。自分のためにも、
「私が生きているのはもちろん私の人生であるわけだけど、でも、そこで起こることのほとんどのすべては、私とは関係のない場所で勝手に決められて、勝手に進められているのかもしれないって。つまり、私はこうして自由意志みたいなものを持って生きているようだけど、結局のところ私自身は何一つ選んでいないのかもしれない。」
私も、主人公のように「私を導いてくれるものがいる」と確固たる信念を持たなくてはならないと感じています。それはきっと自分の心の中から生まれてくるものだと。
「騎士団長は本当にいたんだよ。」