いよいよ、イデアが騎士団長として主人公の前に顕れ、アドバイスやらメッセージやらを発します。村上春樹の小説の中では現実ではあり得ないような存在がよく描かれます。そしてそれが、主人公の生き方に様々な示唆を与えます。
目に見えるものが現実だ。
しっかりと目を開けてそれを見ておればいいのだ。
判断はあとですればよろしい。
よく分かりませんが、そのイデアは【主人公の心の奥底に潜む別の自分】のようなものなのかもしれません。
真っ暗な穴の中、そして、亡くなった妹との鍾乳洞での思い出、更にナチスの『水晶の夜(クリスタル・ナハト)』のことまで出てきます。どこまでも奥行きのある物語です。
彼の物語にはとても魅力的な女性が登場します。彼は一人の少女の肖像画を描くことになります。彼女の叔母もまた、魅力的に描かれています。そして、彼が別れた妻との離婚の現実も、まだうまく飲み込めていない事も。
今までこれが自分の道だと思って普通に歩いてきたのに、急にその道が足元からすとんと消えてなくなって、何もない空間を方角もわからないまま、手応えもないまま、ただてくてく進んでいくみたいなそんな感じだよ。
と、モデルになった女の子に話した言葉などは、心に響きます。
何かをきっかけにして違う道に進むしかない状況になってしまうことは誰にでも起こり得ることです。私もその中の一人です。
真っ黒なスタンウェイのフルグランドピアノもさり気なく小説に描かれています。
- 存在と非存在が混じり合っていく瞬間
- 真実がどれほど深い孤独を人にもたらすのか
- あるいはそれは完璧すぎたのかもしれない。
今回もワクワクさせる小見出しが効いています。自分自身の物語と交錯させながら読んでいます。
この巻の最後のエピソードが、この物語の進展に深く関わっていくことを示唆しています。
第2部も楽しみです。