降誕祭の夜

汝の敵を愛せよ

マチネの終わりに    平野啓一郎 著

映画が良かったので、年末年始に読もうと思っていたのですが、

雪かきに思いのほか時間を取られて、

読書の時間が日中なかなか取れませんでした。

仕方がないので夜寝る前に少しずつ読み進めました。

 

初めて読む作家です。

 

ただ、日蝕で第120回芥川賞を当時最年少の23歳で

受賞したことは覚えています。しばらくして、

盛岡に住んでいた頃に図書館で本を借りたのですが、

文章や漢字が難しくてうまく読み進めることができませんでした。

今なら読めるかなぁ?

 

一昨日の夜、平日は、遅くとも午後11時には寝るのですが、

読み終えられそうだったので、最後まで一気に読みました。

次の日になってしまいました。若くないんだから・・・・。

 

マチネの終わりに(文庫版) (コルク)

裏表紙より

天才クラシックギタリスト・蒔野聡史と、国際ジャーナリスト・小峰洋子。四十代という“人生の暗い森”を前に出会った二人の切なすぎる恋の行方を軸に、芸術と生活、父と娘、グローバリズム、生と死などのテーマが重層的に描かれる。いつまでも作品世界に浸っていたいと思わずにはいられないロングセラー恋愛小説を文庫化!

裏表紙を見ると 蒔野聡史も小峰洋子もどちらも一流の人物なので、

なんとなく鼻につく物語なのかなぁ、と思いながら読み進めたのですが、

映画と同じように、とても静謐で穏やかな物語でした。

 

二人の想いがすれ違っていく切なさがあったり、

【今】につながる社会情勢も自然に上手く散りばめられたりしていることも

この物語に奥行きを与えていることを感じました。

 

物語の中で印象に残った音楽はバッハの『無伴奏チェロ組曲です。

学生の時にやはりギターを弾く先輩やマンドリンセロを弾く同学年の友達が

一番を弾いていました。

バッハは鍵盤楽器の曲を聴くことが多いのですが、

この組曲は、私も大好きです。ギターの演奏も味わい深いです。

【二人にとって、とても大切な曲です】


John Feeley - Cello suite no.1 in D by J.S. Bach

私はギターは弾けませんが、大学時代にマンドリンのサークルに入っていた時に

ギターパートもあったので、クラシックギターについては何となく分かります。

合奏だけでなくマンドリンのソロの伴奏もよく弾いてもらいましたし、簡単な曲なら

友達の楽器を借りて練習の合間に悪戯をして弾いていました。

ただ、私はピアノを弾くので爪は伸ばせませんでしたので、

それなりにしか弾くことはできませんでした。ギターのメンバーは、いつも大切に

爪の手入れをしていました。そんなことも思い出しました。

 

あと心に残った曲は、洋子が、蒔野とすれ違い、出会うことができずに、

一人で辛い夜をホテルで過ごすときに聞いた音楽、

ラフマニノフの『ヴォカリーズ』です。

しかもアンナ・モッフォのものを何回もリピートして眠りにつく

場面にも共感してしまいました。

声楽はあまり聴かないのですが、アンナ・モッフォのソプラノは

とても優しくて柔らかで、嫌なことがあった時とか落ち込んだ時は

実は私も子守唄がわりに聴いて眠りについています。


Anna Moffo: Rachmaninoff, 'Vocalise' Op. 34 No.14

さて、物語に戻ります。

3度しか出会っていないのに恋に落ち、気持ちが通い合っているはずなのに

すれ違うのですが、二人の生き方が与えられた環境の中で

誠実に生きようとしていることと、

かけがえの無い【恋】の思い出を大切にしていることに心を打たれます。

誰かを好きになることとか、思いやりとか、なんだろう!?

いろんなことを想いながら読み進めました。

 

 

本を読み終えた瞬間、静かに涙が流れました。

大切なことを教えられたような気がします。

 

物語の中に東日本大震災のことも描かれていました。

岩手県の沿岸地域も甚大な被害を受けました。

ボランティアにも何度となく足を運びました。

そのこともいつかブログでふれたいです。

 

もう一つ、この本を読んで感じたことは、月日が物事を醸成していくのだから、

何か無理にするのではなく、その流れに身を委ねることも大切だということです。

それは、諦めて何もしないということではなく、どんな環境の中でも

自分ができることを精一杯するという意味だと自分なりに捉えました。

 

素敵な詩もたくさん引用されていました。

聖書の話も印象深かったです。

読んで良かったです。

 

温かい気持ちになれました。

著者による引用文献や後書きも印象に残りました。

他の作品も読まなくちゃ。

 

映画、また見よう。

 

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