思った以上に、『イエスと親鸞』を再読したことをまとめるのに時間がかかってしまい、再読しようと思っていた本にまで手が回らなかったです。
でも、私にとって『イエスと親鸞』のことを再読してまとめることは、とても大切な作業だったと思っています。
村上春樹の小説、「ねじまき鳥クロニクル」で主人公が井戸の底で思索するように、「騎士団長殺し」で主人公が追い詰められた結果、真っ黒な穴の中で覚醒したときのように。
自分がここ数年の中で体験したすべての出来事の【意味】を整理するために、この作業に没頭したことは必然でした。
さて、その作業が終わり、再読したこの本の感想です。
『鉄道員』と『ラブ・レター』については、前に書いていたので省略。
『悪魔』は、雰囲気が江戸川乱歩の短編集を彷彿とさせました。探偵ものというより、どちらかというと大人の雰囲気の乱歩の作品の雰囲気に似ていると感じました。
『角筈にて』は、東大出の一流商社マンが、海外に左遷させられることから始まる物語です。ちなみに角筈というのは、新宿の歌舞伎町のあたりをさす地名なそうです。
最後まで読むと、主人公と父親との関係が通底にありますが、主人公と妻の物語です。切ない物語でしたが、心が温まります。ジーンときます。
『伽羅』の時代設定は、バブルの頃でしょうか。あるブティックが舞台になり、その女店主と主人公の関わりから、その頃の衣料業界の裏事情も書かれていて興味深かったです。
『うらぼんえ』の主人公は、父にも母にも捨てられ祖父母に引き取られたという境遇の女性です。でも、大切に育てられて大学に入り結婚もします。しかし、夫が浮気をします。しかも相手の女性が妊娠してしまいます。物語は、主人公のちえ子と夫がお盆に夫の故郷に帰るところから始まります。
死者がよみがえり、ちえ子に生きる希望を与える物語でした。亡くなったちえ子のおじいちゃんの描写がとても人情味溢れていて素敵です。
『ろくでなしのサンタ』の主人公は『ラブ・レター』の主人公とかぶります。ポン引きで捕まった主人公が、その時に出会った【北川】というメッキ工場で働いていた不器用な男が逮捕されるまでの話を聞きます。そして、彼の家族のことも。
主人公の名前は三太(さんた)です。釈放された日は、クリスマスイブです。
本当に悪い人間って誰なの?題名が、読者に問いかけていると思いました。
そして、サンタクロースは本当にいるんだなぁ、そう思いました。
『オリオン座からの招待状』の主人公は、ダブル不倫をしている夫婦です。幼い頃二人は京都に住んでいた幼なじみでしたが、夫婦仲は冷え切っています。
そんな二人に【西陣オリオン座】という映画館の閉館のお知らせと最後の興行の案内のハガキが届きます。
最初のページがそのハガキの文面で始まっているところから宮沢賢治の『どんぐりと山猫』の一郎に届いた手紙を思い出しました。
夫婦の幼い頃の思い出とその映画館の店主との会話が絡まりながら、物語は進みます。
夫婦が主人公ですが、その映画館をずっと守ってきた老夫婦の年月にも思いを馳せました。
再読すると、いろんな発見があります。